Part6 涙の面談
Part6 涙の面談
PM(プロジェクトマネージャー)との面談で聞きたいことは山ほどあった。
「ぽんひろ君のことは取締役に話しを通してあるし、来年度の予算も組んでるから後は君がOKを出すだけ」(詳しくはPart1参照)と一次面接前にPMに言われていたし、不採用の理由も謎のままだった。
裏切られた気持ちとどうしようもない虚無感でいっぱいだった。
不採用を決めたのは役員で、人事の最終権限を持っている。
つまりPMとの面談で自分がブチギレても結果は変わらない。
しかもPMはクライアントで、私にとってはお客さんである。
激怒なんてしたら今後の仕事がやりにくくなる。
なんならPMは自分の実力を認めて推薦してくれた人物。
がんじがらめだった。
そんなことを考えながら恐る恐るGoogle Meetの「参加」ボタンを押す。
画面にはPMともう1人別の社員が映っていた。
入社を推薦してくれて役員面接も同席していた人だ。
自分含め3人とも表情が暗いし硬い。
オンラインながら緊張感が漂う。
「お疲れ様です」
挨拶を済ませた後、しばしの静寂を経てPMは口を開いた。
「俺も憤ってる。ふざけんなよと。一番腹立ってるのはぽんひろ君なんだろうけど」
「こちら(役員以外)は4月入社で話を進めていて、後はぽんひろ君に書類を渡してハンコを押してもらう段階だった」
「役員がなぜこういう決定をしたのか、我々にも教えてくれなかったし役員面接後の会議にも参加させてもらえなかった」
私は黙って聞いていた。
不採用を聞いた直後はPMに対する不信感や憤りを感じていた。
だが、PMは本当に自分を入社させたいと思っていたし、できる限りの行動をしてくれていた。
オンラインといえど誠意が伝わってきた。
祖母の葬儀関連の合間を縫って受けた面接やその準備に割いた時間は全て無に帰したが、この人に愚痴をぶちまけるわけにはいかなかった。
そんなことに考えをめぐらせて私はおもむろに口を開いた。
「結果を聞いた直後は感情を整理できませんでした」
「数日経って冷静に振り返れるようになりました」
ゆっくりと自分の思いを伝える。
「現場で私の仕事ぶりを見ているPMは入社して欲しいと推薦してくれた。一方、普段の働きぶりは何も知らないが権限だけを持っている方々が不採用を決定した。今はこう思っています」
PMは言葉を詰まらせながら応えた。
「役員が現場の意見を聞かないでどうすんだよ」
「ダメだ。俺が泣けてきた」
目頭を押さえるPMに私は何も言うことができなかった。
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「それで提案なんだけど」
PMが話し始める。
「もしぽんひろ君がまだ一緒に働いてくれるなら、現状の業務委託のまま働いてもらえませんか」
「もうこんな会社とは仕事できないと言うならもちろんそれでも構いませんので」
「当初話していた通り、社員にならなくても昇給はさせるので」
「来週の面談でお返事ください」
こう言われ面談は終わった。
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月日は流れ5月。
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結局、今もこのクライアントと一緒に仕事をしている。
「自分を必要としてくれる人」だからだ。
そんな人がいるなら全力で期待に応えたい。
一次面接で答えたポリシーに変わりはない。
なんでもそうだが辞めるのは簡単。続ける方が圧倒的に難しい。
今回の件を経てもこの仕事を続けることでクライアントにさらに信頼してもらえるだろうし。ぽんひろは簡単にはやめないぞと。
とはいえフリーランスを続けるデメリットもある。
昇給はしたものの、社員にはなれなかったため、個人事業主を継続する不安定さは今後も続く。それに税金や年金を自分で納める手間も。
だが「人間万事塞翁が馬」だと思っている。
5年後、10年後にはこの一連の出来事を経験して良かったと思える状況になってるかもしれない。
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祖母の葬儀で住職がこんなことを言っていた。
「死んだ人のためにお経を唱えているわけではない」
「お経(仏様の言葉)を聞いて今生きてる私たちがどう行動するか」
そんな言葉を聞いてこのブログを書くことにした。
祖母に思いを馳せる。クライアントとの一連のやりとりを今後の糧にする。
文章にすることでそれができた。
幸いにもこのブログの更新を楽しみと言ってくれる友人や知人がいる。
「最近父親を亡くした」と連絡をくれた友もいた。
しんどいことも共有すれば心が軽くなる。はず。
書くっていいなぁ。
最後まで書きあげられたのは読んでくれる皆さんがいたからです。
本当にありがとうございました。
またね!