Part5 合否通知
Part5 合否通知
役員面接。
いつものようにGoogle Meetを繋ぐ。
面接官は7、8人。
自分を推薦してくれたクライアントの社員もいた。
「はじめに自己紹介と志望動機を簡単にお願いします」
「(是非入社して欲しいと御社の社員に頼まれて楽々入れるだろうとたかをくくっている)ぽんひろです」
(建前の面接もこれで最後。よくやってきたな自分。)
志望動機を答えた後は役員から様々な質問が飛んでくる。
「文春ってどう思う」
(ざっくりした質問だな)
「というと、どういった意味でしょうか」
(質問が抽象的で何を聞きたいのかわからんかった)
「SNSとかでも影響力がすごいじゃない?そのあたりについて」
(なるほどそういうことね)
「確かに文春は世論を動かすほど独自の報道(調査報道)を連発していますし、新聞やテレビの影響力をはるかに上回ると思います。一方…(長くなるので以下略)」
(さすが役員、本当にざっくばらんに聞いてくるな。冷や汗)
「長期的に見てテレワーク進んでいくと思う?」
(おお、今っぽい質問。)
「進んでいくとは思います。ただテレワークの生産性は出勤時と比べて平均80%に低下するという調査もあります。出勤した方が生産性が上がる職場であるならばオフィスワークに戻ってくると思います。実際オンラインミーティングでは雑談は削られやすいですし…(以下略)」
(仕事で読んだニュースが面接に役に立った。ラッキー)
テレワーク生産性、平均「8割」 出勤時と比較、経験者を調査 https://news.yahoo.co.jp/articles/096ba164dcb8ac461e2852bbc94cf7e35b87a22f
「記者をやってて一番大変だったことは」
(色々あるぅ。警察、検察への取材、遺族取材、原稿執筆能力、やかましいデスクの対応、何話そうか)
「取材や原稿には絶対的な答えがないことですかね。例えば事件事故の遺族取材では…略」
「キュレーションサイトって今後なくなると思うけど、どう思う?」
「今やってる仕事の領域以外も挑戦してもらうことになるけど大丈夫?」
など思わぬ質問にたじろぎながらも30分ほどで役員面接を終えた。
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面接の結果がいつくるのかわからず数日そわそわしていた。
ただ、Part4で書いたように祖母のお通夜や雑務でバタバタしていたためその忙しさが不安をかき消してくれた。「忙」という文字通り、心を亡くしていた。
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祖母の葬儀の日。
火葬が終わるのを待つ控え室でメールが来ていることに気付いた。
スマホの画面には「採用面接の結果について」という題の通知が表示されていた。
「来た」
心臓バクバク。
Gmailのアイコンを押す。
スクロール。
「誠に残念ながら貴殿のご希望に添いかねることになりました」
目を疑った。
「いや落とすんかい!」
「貴殿の希望に添いかねるって書いてあるけど、御社の社員の希望で面接受けたんですけど!」
3回も面接をしてなぜ落としたのか。
PM(プロジェクトマネージャー)が取締役に話を通してあると言っていたのはなんだったのか。
来年度の予算も組んでるって言ってたよね?
今までは業務委託でこれからは社員として働いて欲しいとの要望だったが、今後どうやって働くことになるのか。
ツッコミどころ満載。
憤るぽんひろ。
しかし火葬場の控え室で感情をあらわにするのは祖母にもよろしくない。
冠婚葬祭でしか会えない親戚に詳細を話すわけにもいかない。
奥歯をぐっと噛んで、感情を飲み込んだ。
間もなく火葬と納骨が終わった。
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火葬場から移動し精進落としを親戚みんなで食べた。
いくつかの円卓に分かれそれぞれ会話していた。
自分だけ塞ぎこんで黙っているわけにもいかない。
感情の整理をする必要もあった。
冷静に誰かに話すことで物事を客観的に見られると思い、ほとんど話したことのなかった隣の席の親戚にこの顛末を打ち明けた。
何かの本で読んだが、自分の失敗談やしくじった経験を話すことであまり話したことのかった人とも打ち解けられるようになるらしい。失敗や恥ずかしい経験を晒すことで相手も心を開きやすくなる。「自己開示」というらしい。
親戚は真剣に聞いてくれたし、その後は親戚が打ち込んでいる茶道の話もしてくれた。
やはり失敗談は人間関係の潤滑油になるみたいだ。
話を聞いてもらうだけで冷静になり、精進落としも美味しく味わえた。
湯灌、通夜、葬儀、無事に済んだことで胸をなでおろした。
翌日PMから「面接結果聞きました。面談させてください」と連絡が入った。
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次回、Part6 PMに激怒?
いよいよ最終回?
PMは何を語ったのか。
ぽんひろの決断は。
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